創業融資の審査においては重視されるポイントがいくつも存在します。
融資の審査は「機械的にチェックリストを埋めて終わり」というようなものではありません。
融資担当者が様々な観点から必要な情報を収集し、総合的に判断されるものです。
以下では、創業融資において特に重要なポイントについて整理しながら解説したいと思います。

経営者としての資質

経営者には様々な資質が求められますが、創業融資の審査で特に重視されるポイントとして「経験」・「能力」・「誠実性」・「熱意」の4つが挙げられます。

経験

事業を開始する際に、その業界での経験が豊富であるほど成功する確率も高いと判断されます。
そのため、融資の審査においては業界での経験年数は重要なチェックポイントとなります。

もちろん未経験の業界にチャレンジすることはあると思いますし、創業融資が受けられない訳ではありません。
ただ、まったく未経験の事業は審査上不利になります。

とはいえ、たとえば、同業種の企業で従業員として5年以上勤務した経験があれば、融資審査においても評価されるものと考えられます。
新ビジネスに関する経験やスキルは、面接の際にどんどんアピールしていくようにしましょう。

能力

事業を軌道に乗せ成功に導くためには、経営者として適切な能力が必要とされます。
たとえば、頭の回転が速く、論理的な思考ができるということは事業経営にとって重要な能力といえます。
また、数字に強い、計数管理に長けていること、さらに、営業能力やコミュニケーション能力が高いことも経営者にとって重要な能力です。

融資担当者は、面接などを通じて、経営者の能力の有無について情報収集しています。
もし、経営者の能力が不足していると判断される場合には、自己資金と事業計画書でカバーする必要があります。

誠実性

誠実性

融資をはじめとする金融取引においては「信用第一」と言われるほど信用が重視されます。
そのため融資担当者は、経営者が誠実な人物であるかどうかについて常にチェックしています。

誠実であるかどうかは、面接時のマナーや話し方、電話での対応、約束の日時を守るかどうか、依頼した通りの資料を準備しているかはもちろん、税金の支払い、水道光熱費、ネットやクレジットカード料金の支払いなど、遅滞なく支払ってきたかどうかといった過去の事実(与信調査)を含め判断されます。

また、話している内容と提示された資料や個人信用情報などが整合しているかという点も重視されます。
必要な要件として、これまでお金に対して誠実であったかどうか、といったことが重視されます。
与信調査で、過去に何度も支払いを延滞していたり、ましてや税金や公共料金の未払いなどがあった場合、融資を受けることが難しくなります。

熱意

経験、能力、誠実性に問題がなくても、事業を成功させるという熱意が感じられないと融資担当者は不安を感じます。
「他力本願な姿勢」や「ネガティブな態度」は経営者の資質としてはマイナス評価になります。
特に面接時においては担当者に熱意が伝わるよう「前向きな態度」や「逆境にも耐えられるタフさ」を感じさせるような話し方を心掛けましょう。

経営の見通し

事業の見通し

創業計画の内容は「事業の見通し」に集約されているといっても過言ではありません。
そのため、事業の見通しについては、実現可能であるという根拠も含め、明確に説明できなければなりません。
融資審査に先立って一般消費者向けのBtoCビジネスであれば見込客リストを獲得する、企業間のBtoBビジネスであれば得意先と基本契約や覚書まで締結するくらいのやる気と行動力を示めせば、融資担当者を納得させることができるでしょう。

創業計画書の作成について

事業の見通しを説明するためには、創業計画書(事業計画書)の内容が重要なポイントとなります。

創業融資は、事業の実績がまだ無いので、金融機関側にしても創業計画書で判断するしかありません。
これは、貸したお金がしっかり返ってくるかどうかの審査です。
当然ですが、返済される可能性の高さを判断するのが、創業融資審査の趣旨です。
創業計画をもとに、これから開始するビジネスの利益を予測し、その利益が、返済額を上回るかどうかを判断します。

月の利益から税金を控除した額 > 月の返済額

このような図式になっていれば、融資が受けられる確率が高いです。

特に事業計画を策定するにあたって、1年後に返済額を上回る利益が出ているかどうかを重視します。
この点については融資担当者も良く見ており、1年後も赤字続きの事業計画を作っている人がいますが、これは大きなマイナス材料となるので、避けなければなりません。

初期投資が大きく1年で黒字を見込めない場合

たとえば、アプリの開発事業の場合、初期にアプリ開発費が多額にかかることがよくあります。
後はそのアプリを使い続けるので継続的に大きな開発費が発生することはなく、アップデート費が主になります。
このとき、初期の開発費用に500万円かかるとします。
すると、1年で黒字の事業計画を立てるには無理があります。
そこで、このアプリをソフトウェアとして固定資産にするわけです。
そして、減価償却を行います。
こうすることで、500万の初期投資を5年に分割して考えることができます。
1年で100万円になりますから、これであれば1年で黒字の事業計画を立てることも可能となります。

非現実的な創業計画書はアウト

どうせわからないだろうと思って非現実的な数値で創業計画書を出すのはアウトです。
というのも、日本公庫は創業融資のビッグデータを保有しているからです。
過去に取引をした事業について、アンケートを実施し、融資後の売り上げデータも持っていますので、しっかり時間を掛けて目標の数字を練り込み、現実的な創業計画書を作り上げていく必要があります。

資金繰りの見通し

得意先から順調に注文が入り売上が計上されていても、業種によっては販売代金を回収するまでの期間が長く、資金繰りに窮することもあります。
「黒字倒産」という言葉があるように、たとえ利益が出ている場合であっても資金繰りには注意しておかなければなりません。
そのため仕入代金や外注費の支払と売上代金の回収のタイミングを考慮した収支の見通しが重要となります。
また、仮に資金不足になったときでも他に返済手段があるという場合には、融資担当者にアピールしておきましょう。
たとえば、「有価証券を保有している」、「配偶者の収益用不動産から安定した収入がある」などの状況があれば審査上はプラス評価されます。

資金使途と資金調達

資金使途

融資の判断において、資金使途は非常に重要なポイントです。
資金使途によって事業の成否や融資の回収可能性が変わってくるからです。
資金使途は「設備資金」と「運転資金」に分けられます。

設備資金は、店舗の改装費用や機械の購入費用など初期投資に使われる資金です。
設備資金に関しては、根拠資料として業者からの見積書などを提出することが求められます。

これに対して、運転資金は、仕入代金、賃料、人件費など設備投資以外の支出に使用される資金です。
運転資金に関しては、通常、見積書などの根拠資料は求められません。
運転資金は支出の必要性を資料に基づいて明確に示すのが難しく、他の用途に費消されやすいという特徴もあります。
そのため、金融機関からすると必要以上に運転資金を融資しないというスタンスになりがちで、減額の対象となることもよくあります。
従って、創業計画書(事業計画書)で資金の使途を明確にすることが重要です。

資金調達

資金調達とは、事業に必要な資金をどのように準備したかということを意味します。
創業融資における資金調達の方法は、「自己資金」、「創業融資」、「その他の借入」に区分されます。
このうち、自己資金に関しては、どのようにして工面した資金であるかについて詳細にチェックされます。
自分でコツコツと貯めてきた資金であれば、問題なく自己資金として認められ、計画性という点からも評価されます。

『自己資金=起業への熱意』

新たなビジネスを始める意欲や情熱のある人の方が、当然、成功する可能性も高いと考えられます。
この熱意を判断する材料として、自己資金が用いられます。

たとえば、自己資金500万円の人が500万円の融資を申し込んだ場合。
一方で、自己資金0円の人が、500万円の融資を申し込んだ場合には融資担当者からすると、前者の方のほうが、より熱意を感じます。融資をする可能性も高くなります。

また自己資金割合とは、創業のために必要となる資金全体にかかる自己資金の割合です。
自己資金割合の審査は、創業融資審査の中でも特に重要で、最もウエイトが重い審査事項といっても過言ではありません。
ここを落とすと、創業審査に通る確率がぐっと下がります。
もし、自己資金が少ない場合のポイントは、創業計画書(事業計画書)と経歴・経験でカバーします。

自己資金割合の目安

  • 創業融資審査申し込みについては、10分の1
  • 実務上、自己資金として求められる目安の割合、3分の1

日本政策金融公庫には新創業融資制度があり、この制度の利用を考えている起業家の方も多いです。
この要件として10分の1の自己資金が求められますが、この基準はあくまで審査をしてもらえる基準割合です。
しかし、現実的には自己資金割合を理由に融資不可とならない割合は、3分の1というのが一般的な指標です。
なお、親や知人から拠出された資金についても自己資金として認められる可能性があります。
ただし、その資金が契約にもとづき贈与されたもので、返済義務を負わないものかという視点でチェックされます。

その他の借入については、根拠資料を確認されるとともに、どのような経緯で借入したものかについてチェックされます。

預金通帳の審査が行われる

預金通帳の審査が行われる

自己資金の審査の一環として、起業家本人の預金通帳を過去に遡って、預金の出所の調査がなされます。
これは正当な振込みかどうかのチェックです。
この正当とは、つまり創業者自身の給料であるかどうかという視点です。
創業に向けて他者から借り入れた預金だとみなされた場合、通常は自己資金からは除かれます。

返済能力

資産の状況

「経営者の資質」や「経営の見通し」をチェックするのも、結局は融資が回収できるかどうかを判断するためということができます。
事業資金以外に十分な資産を保有しているのであれば、融資の回収可能性は高いと判断されます。
そのため、有価証券、不動産、解約返戻金のある保険契約などを保有しているのであれば、担当者に積極的に情報開示しましょう。
具体的な資料としては、取引報告書、登記簿謄本、登記識別情報(権利証)、保険契約書などを提示することになります。

負債の状況

一般的には借入金などの負債が多いほど、審査上は不利になります。
借入金には、住宅ローン、自動車ローン、教育ローンなどの他、カードローン、リボ払いにしているショッピング枠、消費者金融からの借入などが含まれます。
これらの情報は、審査上不利になるものであっても、嘘をついたり、隠したりすることなく、正しく情報開示しましょう。
仮に、隠していることが金融機関に知られた場合には、信用を失い融資を受けられなくなる可能性もあります。

支払実績

支払実績とは

支払実績というのは、日常生活における諸々の支払を期日どおりにしているかという確認事項です。
たとえば、電気、ガスなどの公共料金の支払、各種ローンの返済、住民税などの税金の納付などが含まれます。
創業融資の審査において、預金通帳の提出を求められるのは、自己資金や保有資産の残高を確認するためでもありますが、通帳の入出金を見て浪費の有無や支払遅延の有無などを確認するためでもあります。

個人信用情報について

金融機関に融資の申し込みをすると、金融機関が個人信用情報を確認することについて同意する文書に署名押印を求められます。
金融機関はこれにもとづき個人信用情報機関に個人信用情報の照会をかけることができます。
個人信用情報機関とは、

  • 一般社団法人全国銀行協会(全銀協)の全国銀行個人信用情報センター
  • 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
  • 株式会社日本信用情報機構(JICC)

などの機関を指します。
これらの機関に照会した情報からローンの利用状況や支払履歴を確認することができます。
なお、返済に関して事故があると、その記録が一定期間残るようになっています。

金融事故情報への対処

他の審査項目の評価が良くても、事故情報があると、それだけの理由で融資を受けられなくなる可能性もあります。
個人信用情報は自分でも確認することができますので、融資を申し込む前に確認しておくのも良いと思います。
もし、不利な情報が記載されている場合には、一定期間を置いてから融資の申し込みをするなどの対応方法も考えられます。

どこから融資を受けるか

創業融資の申請先

創業融資は、どこに申請するのがいいのか?
創業融資を受けるとしたら、大きく分けて2つです。
1つは「日本政策金融公庫」、もう一つは「地方自治体からの制度融資」で、銀行などの民間金融機関が窓口となります。

日本政策金融公庫

(出典:日本政策金融公庫 )

このうち、最も申請者が多く、お勧めは日本政策金融公庫の創業融資です。
地方自治体からの制度融資に比べて審査に時間少なく、積極的に創業融資について対応を行っています。

日本政策金融公庫は、融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)です。
費用が多くかかる事業でも利用可能です。

審査に通る割合

日本公庫の審査は、10人に5人程度しか審査を通過しない傾向にあるようです。
それは、申請書や創業計画書の不備など申し込み要件に達していない、さらに経験が足りないなどの様々な理由が挙げられます。

予備知識がない中で不備なく創業融資審査に臨むのは至難の業です。
そこでお勧めなのは、創業融資を得意としている税理士などの専門家に依頼することです。
パートナーとなってくれる税理士がいれば、必要書類のアドバイスはもらえますし、その後の面談審査のフォローも受けることが可能です。

創業後の金融機関との付き合い

創業融資は、日本政策金融公庫から受けるのが一番得策ですが、ずっと公庫との付き合いのみで良いのか、というとそうではありません。
創業融資こそ日本政策金融公庫の融資が基本ですが、銀行や信用金庫も経営が軌道に乗ってからは、むしろ積極的に融資を行っています。

創業後は、銀行から融資を受けたほうが良い場合もあります。

日本政策金融公庫の特徴

日本政策金融公庫は、経営が上手くいっていても、苦しくても、利率が一定です。
しかし、銀行から融資を受ける場合、会社の業績次第で、会社によって利率が変わります。
公庫よりも銀行のほうが利率も低いことも多々あります。
創業後の金融機関との付き合いについては、中小企業の場合は特に信用金庫と地方銀行をお勧めします。
信用金庫や地方銀行といい関係性を築くことが会社の成長に繋がります。

  • 常に利率が一定
  • 再審査の可能性がある

日本政策金融公庫は、経営が上手くいっていても、苦しくても、利率が一定です。
しかし、銀行から融資を受ける場合、会社の業績次第で、会社によって利率が変わります。
公庫よりも銀行のほうが利率も低いことも多々あります。
創業後の金融機関との付き合いについては、中小企業の場合は特に信用金庫と地方銀行をお勧めします。
信用金庫や地方銀行といい関係性を築くことが会社の成長に繋がります。

まとめ

以上、創業融資の審査のポイントを解説してきました。
これらのポイントを知っておくことが、審査に通るために必要になってきます。

特に創業融資審査は、しっかりとした準備と専門家との連携が勝負です。
制度上は、審査に落ちても6ヵ月後にまた受ける機会があります。
しかし、現実的に考えて、一度審査に落ちた問題点を、6ヵ月で解決することは非常に難しく、そのためにも審査に際して万全に望みたいものです。
創業は人生を掛けた勝負であり、スタートから失敗できないからこそ、今回ご紹介したポイントを踏まえて、万全の準備をしていきましょう。

創業のスタートだからこそ、専門知識をもったスペシャリストのサポートを受けることが大事です。

~創業融資成功のために~

当事務所では、創業融資をスムーズに受けられるよう以下のサポートを行っています。

融資担当者との関係性創り

日本政策金融公庫様や金融機関との日々の取引を通じて、正直に向き合い良好な関係作りを心掛けております。

創業計画書(事業計画書)作りのサポート

創業計画書は、自己資金・経歴と同様に、創業融資の最重要項目です。
専門家に頼んで作成した創業計画書は何ら意味がありません。
まずは、自分の言葉で創業計画書を作成して下さい。
ビジョン税理士法人では、お客様の頭の中で練り込んだ創業計画書を、さらに実現性の高いものにできるようアドバイスしています。
創業計画書の作成はとても時間が掛かり大変ですが、創業計画書を熱心に作成する情熱がなかれば、ビジネスの成功は見込めません。

融資面談に同席

不安がなく面談を受けられるよう事前にシュミレーションを行います。
シュミレーションも日本政策金融公庫との面談も、ビジョン税理士法人の会議室で行います。
また、ビジョン税理士法人がお客様の面談に同席することにより、お客様の面談をすぐ隣でサポートします。

まずはお気軽にご相談ください!