新型コロナウイルス感染症の影響は急速に日本にも広がり、事業継続に支障をきたしている中小事業者も多くなっています。
政府の緊急対策の一環として、日本政策金融公庫において緊急融資(新型コロナウイルス感染症特別貸付)を行うこととなりましたが、正確な情報が伝わっていないこともあるようです。
ここではその緊急融資(新型コロナウイルス感染症特別貸付)について、わかりやすく解説します。
なお、文中で「現在」とあるのは、この記事の執筆時(令和2年3月18日)を指します。
新型コロナウイルス感染症特別貸付の概要
なお、類似する公庫の融資制度に商工会議所を通じて融資を行う「新型コロナ関連」マル経融資がありますが、こちらについては現在利子補給の対象となっていません。
融資対象者
新型コロナウイルス感染症の影響により一時的に業況が悪化している事業者で、次の1または2のいずれかに該当し、かつ中長期的には業況が回復し、発展することが見込まれる者
- コロナ対策制度融資のように、業種の制限はありません。
- 中長期的に業況が回復、発展することが見込まれるとは、先行きの見通しがなければならないということです。
- 創業後3か月未満の事業者は融資対象となりません。創業融資の利用を検討することになります。
1.最近1ヵ月の売上高が前年または前々年の同期と比較して5%以上減少
(具体例:令和2年2月の売上高が平成31年2月または平成30年2月の売上高より5%以上減少)
2.業歴3ヵ月以上1年1ヵ月未満の場合は、最近1ヵ月の売上高が次のいずれかと比較して5%以上減少
- 過去3ヵ月(最近1ヵ月を含みます。)の平均売上高
- 令和元年12月の売上高
- 令和元年10月から12月の平均売上高
(具体例:令和2年2月の売上高が次のいずれかより5%減少)
- 令和1年12月~令和2年2月の平均売上高
- 令和元年12月の売上高
- 令和元年10月から12月の平均売上高
資金使途
新型コロナウイルス感染症の影響に伴う社会的要因等により必要とする、設備資金および運転資金。
他の借入の返済資金は認められませんので、注意しましょう。
融資限度額
6000万円となっており、他の融資制度とは別枠となっています。
ただしこれは制度上の限度額という意味で、実際の限度額は他の融資制度における残高や担保物件の価値によります。
利率
基準利率が原則ですが(令和2年3月10日現在年1.36%~1.55%)、3000万円の範囲内であれば融資以後3年は基準利率-0.9%(令和2年3月10日現在年0.46%~0.65%)となります。
※基準利率-0.9%の部分について、要件を満たせば利子補給の制度あり。以下で解説します。
返済期間
- 設備資金 20年以内(うち据置期間5年以内)
- 運転資金 15年以内(うち据置期間5年以内)
※据置期間とは、残高に対する利息のみを毎月支払う期間のことです。
担保・保証人の要否
無担保で利用できます。
しかし実際の無担保融資額はこれまでの災害貸付の例と同様に、他の融資制度の利用残高や状況により上下すると思われます。
実質無利子制度(利子補給制度)
詳細は現在検討中ですが、融資額3000万円以内に適用される「基準利率-0.9%」の部分について、条件を満たせば融資後3年間は特別利子補給制度が適用される見込みです。
この制度が適用されれば、3年間実質利子負担がないことになります(利子の補給を後日受ける制度のため、一旦は約定の利子を支払う必要があります)。
利子補給の適用条件
新型コロナウイルス感染症特別貸付を受けた者のうち、以下の者
小規模事業者 | 中小企業者 | |
---|---|---|
個人 | 要件なし(すべて該当) | 売上高▲20%以上 |
法人 | 売上高▲15%以上 | 売上高▲20%以上 |
(注1)小規模事業者とは、卸・小売業、サービス業は常時使用する従業員(*)が5名以下、それ以外の業種は同20名以下の企業をいいます。
また、中小企業者とは、この他の中小企業をいいます。
(*)労働基準法上における「あらかじめ解雇の予告を必要とする者」のことです。
(注2)売上高要件の比較は、新型コロナウイルス感染症特別貸付で確認する最近1ヵ月に加え、その後2ヵ月も含めた3ヵ月間のうちのいずれかの1ヵ月で比較します。
新型コロナウイルス感染症特別貸付の融資申込手続き
申込
以下の書類を記入し、各支店において申込を行います。
最低限必要な提出書類は以下の通りです。通常の融資と異なっているものもあります。
(公庫の書式ダウンロードページから、記入例を含めダウンロードできます)
個人・法人共通 | ・借入申込書 ・新型コロナウイルス感染症の影響による売上減少の申告書 (公庫の取引履歴がない場合) ・ご商売の概要(お客様の自己申告書) (創業計画書を提出する場合は不要) ・創業計画書 (事業開始後間もない場合) ・見積書 (設備資金が含まれる場合) |
---|---|
個人 | ・最近2期分の申告決算書 |
法人 | ・最近2期分の確定申告書・決算書(勘定科目明細書を含みます。) ・法人の履歴事項全部証明書または登記簿謄本(公庫の取引履歴がない場合) |
面談
支店にて、審査担当者と面談を行います。準備資料は別途案内されます。
資金の使いみちや営業状況、新型コロナウイルス感染症により影響を受けている状況などを聴取されます。
融資実行
融資可となれば借用証書などの書類が郵送され(原則)、書類に署名捺印等をして返送します。
利子補給(該当者のみ)
具体的な手続きは未定ですが、一旦支払った利息のうち利子補給対象分につき後日補給がされます。
制度融資との違い
各自治体が窓口となり、信用保証協会が補償することで民間金融機関が融資を行う制度融資があります。
この制度融資にも、新型コロナウイルス感染症対応緊急融資(略称:「感染症対応」等)がありますが、現在以下の点で公庫の融資と違いがあります。
- 東京都等、信用保証料を自治体が補助してくれる例はありますが、利子補給の制度はありません。
- 売上の減少度合いによっては対象業種が限定されています。
(例:最近1か月間の売上高等が前年同月比で5%以上減少している場合は国の指定業種であること。
詳細はセーフティーネット保証制度を参照してください)
まとめ
公庫が行っている新型コロナウイルス感染症特別貸付について、解説しました。
要件に該当すれば、実質無利子で融資を受けられることが可能です。
とはいえ融資である点を踏まえ、今後の返済負担も念頭に置く必要があります。
一人で抱え込まず、ぜひビジョン税理士法人にご相談ください。