会社における無借金経営のリスクを考えたことありますか?

皆さんは「無借金経営」という言葉にどのようなイメージをお持ちですか。
おそらく多くの方は「無借金経営こそが理想の状態」あるいは「無借金経営は会社が目指すべき姿」とお考えではないでしょうか。
しかし、そこには大きな落とし穴が潜んでいます。
以下では、そのような無借金経営の意外なリスクについてお話したいと思います。

借入金は善か悪か?

一般に、借入金の比率が高いと財務体質が良くないとか、逆に自己資本の比率が高いと財務的に健全だという言い方をします。
確かにこれらは間違いではありません。
しかし、だからと言って金融機関からの借入金が「悪」であるということにはなりません。

たとえば、事業を開始する際に自己資本を投入しても、その自己資本が現金や預金の形でそのまま残っていることはまれです。

通常のビジネスであれば、それらの資金を使って設備投資や商品仕入を行います。

売掛金の回収は翌月以降になることが多いので、その状態では新たな設備投資や商品仕入をするための資金がないのは自然なことです。

つまり、事業を拡大していく局面では資金需要も大きく、借入金で資金調達するのは財務論的にも当然のことと言えるのです。

むしろ、余裕資金がまったくない状態で、仕入代金や従業員給与の支払に遅延が生じるようなことがあったら、そちらの方がよほど問題です。

そういう意味では、資金的な余裕を持つための借入金は「善」と考えてよいのです。

会社が倒産する原因は?

それでは、会社が倒産する原因は何だと思われますか。

赤字経営が倒産の原因だと考える方もいらっしゃると思います。

確かに赤字経営が続くと倒産のリスクは高まります。

しかし、いくら赤字が続いても銀行がお金を貸してくれる限りは会社が倒産することはありません。

倒産するというのは、現金が足りなくなって支払不能に陥ることを意味します。

つまり、倒産の直接の原因は現金が足りないことです。

「勘定合って銭足らず」という言葉を聞いたことがあるかも知れません。

計算上は採算が取れていても手元の現金が足りなくなるという意味ですが、これは現実に起こり得ることです。

会計学では利益額とキャッシュ・フローは異なると表現されることもあります。

会計上の利益が黒字となっていても、仕入代金の支払や売上代金の回収のタイミングによって資金ショートを起こすことは珍しいことではありません。

「黒字倒産」と呼ばれる現象が起こるのも、こうした損益計算と資金収支のずれによるものです。

そう考えると、銀行からの借入金に対して支払う利息も、余剰資金を確保して倒産リスクを減少させるための保険のようなものだと捉えることができるのではないでしょうか。

いつでも借金できる能力こそ財産

それでは、余剰資金があるのなら無借金経営が望ましいのでしょうか。

実はそうとも言い切れません。無借金経営を続けていること自体のリスクも存在するのです。

金融機関が融資を行う際には過去の取引実績が重要な判断要素となります。

仮に今まで無借金経営を続けてきた会社が急に融資の相談に来たら金融機関からはどのように見えるでしょう。

「この会社は経営が苦しくなり、資金繰りが悪化しているのだな」と判断されても仕方ありません。

逆に、同程度の売上規模、同程度の財務内容の会社でも、過去に融資実績があり、完済した経験もある会社であればどうでしょうか。

金融機関としては当然、後者の会社に融資したいと考えます。

順調な事業であっても長く会社経営を続けていれば資金に窮する時期はあると思います。

そのような点を考慮すれば、金融機関との信頼関係を構築する意味でも、借りられるときに借りておくことが合理的な判断ということができます。

特に会社設立など創業時に利用することのできる日本政策金融公庫の新創業融資や都道府県の制度融資(創業融資)は金融機関との取引実績を作る絶好の機会でもあります。

そのような実績を積み重ねることによって獲得した「いつでも借金できる能力」はまさに会社の財産と言えるものでしょう。